暮らしの読み物

部会や倶楽部の会員の方々のご協力により寄稿されました。
論文あり、旅あり、食あり、涙あり…と、示唆とウイットに富んだ内容をお愉しみください。


地下足袋日記   1   2   3   4   イギリス編
「遺伝子の命ずるままに 住吉高灯篭建立の奨め」   1  (PDF形式)
味読「やさしさを生きる…」   1   2   3   4   5
ロハスライフ   1
あかりと遊ぶ   1   2   3
アイビー文化を楽しむ   1   2   3   4   5
やきもの小話   1   2   3   4   5   6
35日間の熟年夫婦の旅日記   1-1   1-2   2   3   4   5   6


サンチャゴ・コンポステーラ→レオン→ブルゴス→パンプローナ

  覚醒と同時に前日未整理にしていた荷物をザックに押し込んで駅へ直行し、売店でコーヒーとクロワッサンのサンドイッチを買い茶色の紙袋に入れてもらい始発列車に乗る。
ポルトガルから再びスペインに入る国境越えの直通がないので、ローカル線を乗り継ぎしながらサンチャゴ・コンポステーラを目指すことにした。
  スペイン北部・ガルシア地方一帯は雨が多いせいか、北上するにつれて景色も変わってくる。ポプラの木やブドウ畑も少しづつ秋色をおびてきているようだ。
  列車の開窓は日本ではひんしゅくを買う行為かもしれないが、車内には数人しか乗っていないので自分流に楽しむことにした。車輪の騒音も高いが、風を一杯顔に受けながら線路脇の様子もしっかり見られるので楽しい。耕された肥沃そうな畑の土の色、こんもりと茂った木々、花畑にはつわぶきの黄色、ゼラニュームのピンク、朝顔のような紫色の花々、そしてよく目についたのは、木造りの犬小屋風の建物があちらこちらにあり、花飾りがしてあるので多分マリア像でも安置されているのかなと勝手に解釈したりして、七時間余りの乗車を退屈することなくランラン気分で目的地「サンチャゴ・コンポステーラ」へ到着した。

「サンチャゴ・コンポステーラ」
カテドラル(正面修復工事中)と
オブラドロ広場の一部
サンチャゴ・コンボステーラ
カテドラル入口 石の階段
巡礼者を迎える聖ヤコブの石像
黒光りしている台座
黄金の聖ヤコブの棺
エラドゥーラ公園内、等身大の人形
丘陵地の広場
エラドゥーラ公園からの夕景
  この地「サンチャゴ・コンポステーラ」は、エルサレムやローマと並ぶキリスト教三大聖地の一つで、聖ヤコブの棺が納められている大聖堂(1071〜1152年建造)が観光ポイント。
  中世ヨーロッパの王侯・貴族達は、競って聖地巡礼を行っていたらしい。今日でもキリスト教信者はもちろん、一般の老若男女達が、ピレネー山脈越えを含め、四ルートからスペイン入りをするのが流行のようだ。約800キロの道程が「サンチャゴ巡礼の道」と言われ、かつては巡礼の印であるホタテの貝殻と長い杖、マントを身につけての姿が当り前だったらしいが、今では一ヶ月余りを歩き続けるのに必要な物を入れるバックパックにホタテ貝をつりさげ、杖は登山用のストック、衣服はその季節に合わせた格好で巡礼をしているようだ。自分の足で歩く巡礼の旅は、途中で立ち寄る簡素な宿での営みの積み重ねが精神的な平安を得ることになるのだろうか。そして聖地へたどりついたという到達感がより一層の生きる力に加味されるのかも知れない。きっと日本での「四国八十八ヶ所巡礼の旅」と同じ精神行動なのだろうと思った。
  町は清潔でしっとり落ち着き、観光客や巡礼者でごったがえしてもいないし、道ゆく人ものびやかに見える。旧市街で小ぎれいなペンサオをみつけ、すぐさま外へ出る。町の狭い石畳の道は、どの道をたどっても塔を目指せば大聖堂へたどりつける。この建造物は、スペイン最高のロマネスク様式と言われている。ファサードのオブラドロ広場は全面石畳でとてつもない広さだ。正面より石段を登ると三つのアーチ、栄光の門があり中央に聖ヤコブの石像が巡礼者を迎えているかのように立っている。巡礼者達が手の平をおし当てて祈りを捧げた跡が凹みとしてくっきり残っている。台座の聖者像も信仰する力により触れられたのか、黒光りしているのに驚かされる。
  堂内は薄暗く天井もかなり高い。フラッシュが使えないので写真が撮れない主人は、サッサと足を早める。中央祭壇まで進み左側、地下への階段を下り聖ヤコブの棺(黄金)を見るだけで外へ出る。大聖堂前のオブラドロ広場には、二つの大きな立派な建物が目に入る。かつては巡礼者の為に造られた王立施療院兼宿泊所が今は高級な国営ホテル、パラドールになっている。もう一つは市役所として機能しているからメンテナンスもきちんと行われているせいか実に美しく保存されている。因みにトイレを利用する時は、このような場所を借りると、ほっこりして気持ちよく再び町歩きする元気が出て、得をした気分になる。
  祈りと学問の町をめぐること四〜五時間。大聖堂の裏側にあるキンターナ広場のカフェテラスで一服。こんなにゆったりと足を止めてティータイムがとれる日々を感謝しつつ。
 夕陽も傾きかけた頃から、エンドゥーラ公園へ向かう。巨木でおおわれた丘陵地にある公園には、土地の人々が家族連れで散歩にやってくるのだ。隣り近所誘いあってやって来るのか、生活習慣で夕方にはここへ集まってきてひとしきりおしゃべりに花を咲かせるのか、みんなの装いもきちんとしているから、この公園は町の社交場のようにも思える。乳母車の赤ん坊のお披露目なのか、みんなが取り囲んで大袈裟な身ぶりでほめあったりしている。実に微笑ましい光景だ。日本では夕飯前の台所仕事で忙しい時間帯なのに、よくも家族ぐるみで散歩や語らいに公園などに出掛けられるものだと不思議でたまらない。
  丘陵を登りつめた広場からは、遠く緑豊かな広大な風景と、すぐ眼前には大聖堂や礼拝堂が集中している旧市街の全域を見渡すことが出来た。
  この公園でみた人々の群れに接し、家族がバラバラ状態の日本の現状を考えさせられた。時間に追われ、家族が集い自然を楽しみ、語らう心のゆとりなど全くほど遠い生活になっているのは嘆かわしい限りである。この聖地訪問が恵み一杯で終えることが出来満足だ。

続く   「レオン」へ


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