暮らしの読み物

部会や倶楽部の会員の方々のご協力により寄稿されました。
論文あり、旅あり、食あり、涙あり…と、示唆とウイットに富んだ内容をお愉しみください。


地下足袋日記   1   2   3   4   イギリス編
「遺伝子の命ずるままに 住吉高灯篭建立の奨め」   1  (PDF形式)
味読「やさしさを生きる…」   1   2   3   4   5
ロハスライフ   1
あかりと遊ぶ   1   2   3
アイビー文化を楽しむ   1   2   3   4   5
やきもの小話   1   2   3   4   5   6
35日間の熟年夫婦の旅日記   1-1   1-2   2   3   4   5   6


「アイビー文化を楽しむ」—(3)
昭和53年VAN倒産!!
  僕にとって近年では49年の長島茂雄引退劇に匹敵する大事件でした。
動揺隠せぬ私は、すぐさま心斎橋パルコにあるメンズショップ「フナキヤ」に走りました。
「フナキヤ」は当時私の通ったメンズ・ショップのうち、唯一IVY精神育成のコーチ的存在でありました。
答えは「心配ご無用、当店はJ.PRESS、CHIPP(ともにニューヨーク)を扱いIVY路線をつらぬきます。」なにも分からない私はそれを信じてついて行くしかなかったのであります。
  その後、55年に東京青山にBROOKS BROTHERSが上陸することになったが、何とJ.PRESS、CHIPPの店がニューヨーク46番街にBROOKSの店舗と面していることを知ったときは驚いたものです。
J.PRESSは1902年の創業です。歴史が違います。この事件で本物のIVYに近づけたのです。
VANの貢献度はすばらしいものですが、やはり間違いも多かったと思います。たとえばボタン・ダウンシャツの襟のロールの感じとか、ダブル・ブレステッド・ブレザーをニューポート・ジャケットと呼んだり、他にも「こうでなければならない」など とコジツケも多かったのではないかと思います。しかしそれが楽しかったのですが・・・・・・・・・
  VANは倒産しても精神は死にません。倒産後、元社員、関係者たちがそれぞれ事業を立ち上げ現在もその精神を引き継ぎ成功を収めています。代表といえばビームスの設 楽氏、ボートハウス(ジョイマーク・デザイン)の下山氏などでしょう。

  28歳を迎え私も本物への追及、そして物事へのこだわりを徹底したいと思っていた時ダサイ我が社の中にもオシャレな男性が1人いたのです。T君です。この人との出会いにより、IVY精神をより磨くことになります。 まずこの男のかっこ良さ、外見について語ります。 身長1メートル75センチこの時代では大きいほうです。足は勿論長い。 顔は少し浅黒く、鼻高し、目は切れ目、細身、モデルになれる?私なりの解説。 チャコール・グレーのスーツが一番似合う、ネクタイは細く、シャツはボタン・ダウンしか着ない、スラックスの後ろポケットに約1センチ覗かせるようにハンカチをいれる。 真夏でも、上着を絶対脱がない。今の大阪の気温では無理かな。 私はただただ脱帽するのみでありました。何かを吸収できないかと彼に近づくため、酒に誘いましたが彼は一滴も飲めません。趣味は何かと尋ねますと、JAZZとCOFFEEだそうで少し拍子抜けをしました。ショット・バーで語ろうなどと期待したのですが。 そんなことは言っておられません。付き合うためにはJAZZを勉強しなければなりません。チンプンカンプンで何から手を出して良いのやらわかりません。まったく無知で彼に話しかける勇気もなく、少し知識のある友人にアドバイスをしてもらいながら、初めて買ったLPが秋吉敏子のメデテーションというアルバムでした。その中の一曲「柳よ鳴いておくれ」のフルートの音色の良さに感動したのであります。
  たった1枚のLPを聴いただけで彼に会いました。知ったかぶりをして話しかけました。今思うだけでも冷や汗が出ます。
その時の私を彼はどう思ったのかは後に尋ねてはいませんが、そのとき教えてくれたのがコルトレーンとマイルス・デービスでした。早速そのLPを購入しました。ブルー・トレインとバグス・グルーブだと思います。はじめは何がなんだか分かりません。何せビートルズと荒井由美の世界の人間ですから・・・・
  しかし何度も聴いているうちに楽しくなってきたのです。まずリーダー以外にサイドメンのプレーにも興味がわいてきます。するとまたそのサイドメンのリーダーアルバム が聴きたくなるのです。同じ曲でもプレーヤーが違うと異質のものになってしまいます。そこがまた何ともいえない興味を引き出してくれるのです。

  凝りだすと恐ろしいのが私の性格です。その月の間にLP15枚を購入し、ジャズ雑誌スイング・ジャーナルを読み漁り、翌月ステレオ・システムを購入。スピーカーは勿論 JBL、JAZZにはこのスピーカーが一番合っているらしい。この様にして3ヶ月ぐらいで彼とも何とかジャズの話題も話せるようになり、益々楽しい日々を迎えることになりました。

  大阪、京都の街でジャズクラブ、ジャズ喫茶を連日渡り歩いてT君との会話のネタ作りをしました。ジャズはIVYの心を活性化する秘められたものを持っているのです。書物の面でもT君の勧めで植草甚一氏のスクラップ・ブックと出会いました。ファンキー・ジャズの勉強、僕の東京案内、マイルスとコルトレーンの日々、J・J氏の男子専科 ETC。
今までの薄っぺらいうわべだけのお洒落にすぎなかった自分に反省し恥ずかしさを感じました。と同時に物へのこだわりということについて、第一歩を踏み出せたということです。

  その後T君は東京へ転勤することになりました。残念で淋しく思えましたが逆に彼を尋ねて東京へ行くチャンスを得たのです。振り返ればこの事が人生前半のなかで最も充実した時期だったと思っています。
東京旅行思い出紹介
   飯倉片町で憧れのくろす・としゆき氏の店でロンドン・ストライプのボタン・ダウンシャツを買う。
   青山の理髪店でショート・アイビーカットにする。出来映えがよくうれしくなって青山の街を一周する。
   銀座のテイジン・メンズ・ショップでブラック・ウオッチのブレザーを買う。
   田園コロシアムでジャズコンサート、VSOPクインテッドを聴く。
   六本木で早朝までジャズクラブをはしごする。
   師走の人形町をぶらつく。下町のなんともいえない情緒がありました。
   ボート・ハウスの第1号のトレーナーを購入する。
   ブルックス・ブラザーズで本物ボタン・ダウンを手にする。店に入る前、興奮度がピークとなって身体の奮える思いは今も忘れません。


  まだまだ有りますが一応代表する出来事です。
このすばらしい3年間が過ぎ私も30歳を迎えようとしていた。充実しているつもりでもオフクロは許してくれません。世間体を考えそろそろ結婚をと矢の催促です。
  オシャレには金と自由時間が必要です。せめて理解あるセンスある人をと思いますが即周りにはおりません。さあ、困りました。

  次回は結婚生活に入って日常生活でのIVY精神について書きたいと思います。


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