今回のセミナーでは、滋賀県蒲生郡日野町に鎮座する馬見岡綿向神社の春の例祭「日野祭」の本祭を訪れ、地域に息づく伝統と人々の想いに触れることができました。
日野町では、神社を「大宮さん」と呼び親しまれており、850年以上の長い歴史を持つこの祭りを、今も町を挙げて大切に守り続けているそうです。1985年には「日野曳山祭」の名称で滋賀県無形民俗文化財に指定され、毎年5月2日(宵祭)、3日(本祭)、4日(後宴祭)の3日間にわたって行われています。 神輿や稚児行列による「神幸祭り」と、18世紀初頭から伝わる16基の曳山が町を巡行する「曳山祭り」が併せて行われる日野祭は、壮麗さと格式を兼ね備えた祭礼でした。 中でも驚いたのは、巡行の道筋に一本の電柱もないこと。すべての電柱が個人の屋敷内に建てられており、町全体が祭りのために整えられていることから、伝統ある祭りへの住民一人ひとりの熱い想いがひしひしと伝わってきました。
また、日本で唯一であるという日野独自の建築様式「桟敷窓(さじきまど)」の存在も非常に印象的でした。普段は閉ざされているこの窓が祭りの日には開かれ、緋毛氈(ひもうせん)や御簾で美しく飾られた窓越しに、家族や親戚が集まり、曳山の巡行を見守る姿は、まさに「暮らしの中にある祭り」の象徴です。 一部の桟敷窓は一般の訪問者にも開放されており、観光客への温かなもてなしの心も感じられて、心が和みました。
昼食には、近江日野商人の旧山中正吉邸にて、伝統の祭礼料理「鯛そうめん」と「塩むすび」をいただき、地域のもてなしの文化に触れることができました。 また、邸内では日野の歴史や文化に関する史料を見学したり、桟敷窓越しに巡行を眺めたりと、日常では味わえない貴重な体験をすることができました。
このセミナーを通して、単に「伝統行事を見学する」のではなく、「地域に生きる人々の矜持とつながる」ことの尊さを体感しました。日野祭は、まさに“暮らしの中にある文化遺産”であり、日本の地域文化の奥深さを改めて教えてくれる時間となりました。 一人でも多くの方に、日野の町を訪れ、その静かな熱気と豊かな文化に触れていただきたいと心から思います。 |